29.2つ目の大瀑布、ナイアガラフォールズ

 

 子供の頃の記憶では、「世界で一番“すごい”滝は、ナイアガラの滝である」となっていたような気がする。

 

もちろん、大人になった今では、世界にはナイアガラ以外にもヴィクトリア、イグアスという名瀑布があることを知っている。最近では、ベネズエラのエンジェル・フォールズ(落差979m=ほとんど1km!という、ギアナ高地にある滝)が急速に知名度を上げつつあり、滝マニア(そんなのいるのかしらん)の間では、こちらの方が断然上だ、ということで通っていることも、知っている。

 

それでも、ナイアガラ滝はすごい。何がすごいって、この滝が日本人にとってすでに欠かせない存在になっているところである。

 

日本にある滝といえば、日光の華厳の滝のような一直線系か、各地にいくつかある白糸の滝のようなレースカーテン系がほとんど。そもそも、山がちで国土の狭い島国では、外国に多い、海のような大河ができにくい。したがって、幅も高さも水量も超ド級の豪快な滝は、どうしたって望めない。

世界の中でも無類の滝好き国民である我々日本人にとって、初めてナイアガラ滝の存在を知ったときの衝撃は、想像するに余りある。特に花火屋さん。「ガビ〜ン(死語)!世界にはこんなすごい滝があったとは!おいかぁちゃん、急いで改名だ!!」なんて展開があったかなかったか、花火大会で必ずフィナーレを飾るのは、かの有名な「ナイアガラ」。日本の夏の風物詩にアメリカもんの名前など付けて、けしからーん!なんていちゃもんをつけたという話もあんまり聞かない。これだけは、ヴィクトリアとかイグアスではなく、未来永劫そのままであろう。

 

とにかく、日本人の脳にかくも強烈にインプリンティングされているこの滝。これを見ずして故郷に錦は飾れん!とまでは思いつめないものの、気分的にはかなり前のめりで臨んだナイアガラ滝観光なのである。

 

 

 広〜いアメリカを移動するときの強〜い味方、グレイハウンドのバスに揺られて10時間。私たちはNYから、国境を越えてカナダ側の滝の町、その名もナイアガラ・フォールズへと到着した。というのは、ナイアガラ滝はアメリカとカナダと2つの国にまたがっているが、アメリカ側よりカナダ側の方がいいポジションから眺められるからである。

 例によって、私たちはユースホステルにチェックインした。ここを基点に、ナイアガラ滝の観光へと繰り出したわけである。

 

 ところで気付いたのだが、滝周辺と町の雰囲気にギャップがありすぎる。

さすが世界的観光地、ナイアガラ滝の周りには豪華ホテルに展望塔、レストランにお土産屋、カジノまで、もう何でもあり。夜には滝がライトアップされちゃうし。

一方ナイアガラ・フォールズの町に戻ると、道幅だけは広い通りには、人も車も店もポツーン。この街は本当に生きているのか?!

それに、町から滝までは、めちゃくちゃ遠い。バスも出ているのだが、バス代を出し惜しんで宿から歩いてみたところ、片道45分くらいはかかってしまった。たまにやぶから野生のリスが顔を出してくれるのが、せめてもの慰め。

 

 

 渓谷に沿って上流へと歩いていると、遠くの方から「ゴゴゴ…」という地鳴りのような音が聞こえてくる。と、はるか前方に滝が小〜さく登場!あれだあれだ、とゴールが見えて歩みも軽くなる。

アメリカ滝は、50年ほど前に滝のかなりの部分が崩れてしまったので、思ったより豪快さがない。カナダ滝は、別名ホースシュー(馬のひづめ)ともいって、大きくカーブを描いている。こちらこそ、幼少時から憧れていたナイアガラの滝そのもの。滝周辺は公園になっていて、入場料も特に必要ない。川岸の道に沿って手すりが付いているので、皆あちこちから思い思いに滝を眺めている。

もっといい写真を撮るためには、もっと近く、もっと近く、とズンズン進んでいたら、河の水が落下する直上の地点まで来ていた。霧雨のように絶えず降りこめる水しぶきで、辺りは一面水浸し。デジカメを故障させてなるものかと、必死で逃げる毅。宿から一緒に行動していたハヤトくんは、一眼レフが水をかぶってシャッターが切れない!と、髪から水をポタポタたらしながら笑っていた。

 

私たちにとって、ナイアガラ滝は、アフリカはジンバブエの「ヴィクトリア滝」に続いて2回目の大瀑布。今回も、やっぱり濡れてしまった。滝の観光は濡れてナンボ、である。

 ただ、前回は水しぶきのあまりの激しさに目も開けられなかったほどだったが、今回はそれほどでもなかった。ヴィクトリア滝の方が、落差が大きいからかもしれない。

濡れついでに、滝つぼ近くまで接近する遊覧船に乗った。その名も「霧の乙女号」。上から眺めているより、こちらの方が迫力満点!乗客全員にビニールのカッパが配られるのだが、水しぶきがもうもうと巻き上げては降りつけるので、あまり効き目がない。中には喜んでびしょ濡れになっている人もいて、Yea!とかWow!とか、船上は大騒ぎである。

 

 

また45分かけて、宿まで歩いて帰る。

 

途中、公園の一角に人だかりができていたので近寄ってみると、映画のロケらしい。さすが世界的観光地ナイアガラ滝。かのマリリン・モンローの映画にもなっているだけはある。

遊歩道の一部をテープで囲い、テントやクレーンカメラが仰々しい。大勢のスタッフと大勢のエキストラと大勢の野次馬が見つめるなか、若い主演女優が演技テストを繰り返していた。驚いた彼女は、手にしていたハンバーガーを取り落とす。何度も何度も、落とす。その度に助手が、新しいハンバーガーを女優に渡し、また、落とす。知らない映画タイトル、見たこともない女優…。

 

 

 滝は、一度観れば充分。滝マニアでもない私たちは、丸4日間の滞在中、1日しかナイアガラ滝を観に行かなかった。ナイアガラ・フォールズの町に乗り込む前と比べたら、まさかの心理的変化である。ま、そんなものである。

 

 その代わり、宿で知り合ったサトミさんとヨウコさんに誘われ、ワイナリーツアーに出かけた。カナダ東部は、知る人ぞ知るアイスワイン(ブドウの収穫を遅らせ、霜をつけてブドウの水分をぬいてから収穫した、糖度の非常に高いワイン)の産地なのである。

私たちが訪ねたワイナリーには、日本人の従業員が働いていて日本語でガイドしてくれた。製造過程などを見学した後は、お待ち兼ねの試飲タイム。アイスワインの試飲は、ショットグラス並に小ぶりのグラス1杯で、ツアーとは別料金で5ドル也。でも本当にビックリするくらい美味しかった。昼間からほろ酔いなんて、最高に贅沢な気分である。

 滝が目当ての観光客が多いなか、穴場的存在のワイナリーツアー。ワイン好きの方なら、ただ滝だけ観て通り過ぎるのはもったいなさすぎる場所かもしれない。

 

 

ホースシューに近づく霧の乙女号。これから更に近づくことになる。